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newsletter vol.3 フエルト作家 きりのみりいさん

 
特別インタビュー

きりのみりいさん 
リアル羊毛フェルト作家・イラストレーター
きりのみりいリアル羊毛フェルト教室主宰


まるで本物のように生き生きと表現された犬やネコたちの表情や姿――
「リアル羊毛フェルト」の世界の背景には、命の尊さがあると語るきりのさん。
独自に築いた羊毛フェルトの技術開発のいきさつや、
制作に対する思いを吉祥寺教室を開講しているワ・ミューズでお聞きしました。


■動物を愛する人たちの心に寄りそうリアル羊毛フェルト





イラストレーターとして、広告や出版、舞台美術など、さまざまな分野で活躍していたきりのさんが、リアル羊毛フェルトの制作を始めたのは2000年初頭、自らが主宰する絵画教室で、立体の造形に使ったのが始まりでした。
「そうしたら、生徒の親御さんたちからチワワを作ってとかネコ作ってとか、ネットのオークションに出品をすすめられて出したら、もの凄い反響があったんです」。その後、ネットで作品の発表と販売を開始。そのスーパーリアルといもいえる作風は、イラストレーターのきりのさんにとって「そのままそっくり写すというのは、デッサンと同じ感覚なので」と、自然に生まれてきたようです。次第に、愛情を注いだペットを亡くした人や、ペットにさまざまな思いを寄せる人たちの心をとらえ、オーダーメイドの注文が押し寄せるように。「イラストレーターで終わると思っていた」人生は大きく転換していきました。
「オーダーされた方々が泣いて喜んでくださったり、もう本当にたくさんの感謝のお頼りをいただいたんです。家族同様のペットを亡くされたとか、オーダーされる方の気持ちに応えることは簡単なことではないですが、作品を通して私でも世の中に貢献することができるんだと思えたのです。普通のぬいぐるみを作っていたらそんな体験はしなかったでしょうね。
ほんとうに感動です」と語るきりのさん。その時、思わず目からほろほろと落ちた涙。作品には触れた人々との多くのドラマが秘められていることを物語っていました。



■基本は「専用針と羊毛だけ」のシンプルな世界から生まれる奥深さ

羊毛フェルトは、毛糸に紡ぐ前の繊維状の羊毛を専用針・ニードルで刺してフェルト化して固めて、胴や顔、脚などの形を作っていく手法です。顔と耳など、それぞれのパーツは境目を専用針で刺していくと羊毛の繊維と繊維がからまって固定していくので、糸も縫い針も必要なく、きりのさんが言うように道具は「専用針と羊毛だけ」。基本はとてもシンプルですが、みりい流リアル羊毛フェルトは、まだファンシー的で単純な作風が主流だった当時、独自の研究・開発をすすめて技術を確立したスタイルです。
「リアルな動物を表現するには、それに合う技術や道具の使い分けが必要なんです。私の前には誰もいなかったので、自分で開発するしかなかった」と言うきりのさんは、羊毛の繊維の太さや、ボディのパーツによって使い分ける各種の針、自ら命名したライトタッチとかディープタッチ、ロング植毛など、さまざまな技法やカリキュラムを開発してきました。



ネットを通してファンになった方々からの要望に応えて教室を開設した2009年以来、その技法をおしみなく教えるきりのさん。毛並の立ちた方、脚の付け根のくびれ方、位置や大きさによって表情が微妙に変わってくる目や鼻の付け方など細部にいたるまで、生徒さん一人一人対する指導がとても丁寧です。生徒さんの作品を自ら手にとり技術を見せ、時に意見を交換していくきりのさんの姿からは、和気あいあいとした中にも、制作に対する熱い思いが感じられます。
「オーダーされる方とか、制作する生徒さんたちのペットとか動物への思いとか、背景には貴い命の存在があるんです。だからこそ手を抜けないし妥協しない。ついつい力が入ってしまうんです(笑)」



■ひと針ひと針、時間をかけてつくる愛情たっぷりの作品

  
生徒数約150名、会員数200名以上となり、教室は現在都内と関東圏に7か所に増え、奈良や北海道からと、日本全国各地や海外からも参加者があるほど。初級から上級(1級-4級)のコースと指導者を養成するインストラクターコースがあり、初級では簡単な作品の制作をとおして動物の骨格を学んだり、基礎からしっかりと教える細やかさもみりい流です。
インストラクターも着実に育ちつつあり、アシスタントも務める数名の方が埼玉・川越支部と横浜支部などの運営を支えるようになりました。 教えるきりのさんが妥協しないのなら、「なんでそこまで必死になるのだろうとこちらが思うほど、生徒さんも妥協しないんです」と、嬉しそうに笑うきりのさん。刺せば刺すほど固くなり、羊毛を足したり引いたりして形を整えていくのも自由自在できる羊毛フェルト。その特徴を生かし、顔の表情や脚や胴体の形はもとより、目の大きさや色などにもとんこだわって制作に熱中する生徒さんたち。そこには「作ることが好きでたまらない」、そんな活き活きとした空気が伝わってきました。
「私どもの教室の技術は、世界的にみてもレベルがとても高いと思います。でも、ひと針、ひと針、とても時間がかかるんです。一体に一年もかける人もいるんですが、それだけ作品を大事にしているんですね」。自分の思いを託し、ひとつひとつ丁寧につくりながら自分の大切なものになっていく作品は、「オンリーワン、スペシャルなのです」。そして、制作に「いちばん大切なのは、好きで楽しいということ。愛情たっぷりのものを作るのですからね」と、おおらかに微笑みました。



■人と人とのコミュニケーションを大切にして



  
スーパーリアルな世界を表現するには、犬やネコの形や表情を正確にとらえることが必要で、教室では特徴が解説された犬種や猫の図鑑やネットで調べて参考にしたりしていますが、それだけでなく「半分は会員さんから聞くんです」と、きりのさん。 「会員さんには、ブリーダーさんとかトリマーさんとか、動物のレスキューの方など、動物のプロがいっぱいいらっしゃって、そういう方たちから教えていただいたり、話しているとヒントをいただくことが多いんです」と語るきりのさんが強調したのは、人と人とのコミュニケーションの大切さです。
それは20年近く教鞭をとったデザイン専門学校で、何千人もの生徒を見てきた経験からも思うこと。

「人とコミュニケーションをとれる人は、情も豊かで、表現が生き生きしたものを作るんですね。人と情報交換できる能力が技にも結びついていくんです。 コミュニケーションをもって自分の世界を広げ成長していくこと、それは追求心ともいえますが、そこを教室の軸にしていきたいと思っています」。教室にあふれていた和やかさ、と同時に、ひとつのものに集中していくときの熱気を帯びたような空気は、こんなきりのさんの思いから醸し出されているのでしょう。

今年1月、一般社団法人miriis japanを設立。2年かかった組織づくりも整って、これからの抱負は「日本発祥のリアル羊毛フェルトを、ただ生活に密着したハンドメイドという枠を超えて、アートとして世界に発信していきたい」ときりのさん。5月25日(土)~26日(日)に開催されされる「ヨコハマハンドメイド・マルシェ2013」では、 等身大の新作を出品されるとお聞きしました。きりのさんとスタッフ6名の方がブースに立ち、作品の紹介やワークショップ、キットの販売も予定しているそうです。必見です。



■プロフィール


  
デザイン専門学校を卒業後、イラストレータとして広告・グラフィックデザイン・メディア業界・舞台美術などさまざまな分野で活躍。2007年までデザイン専門学校講師を長年勤め、絵画・造形教室を経営。2003年頃より羊毛フェルト作品を発表し、ネット販売・オーダーメイドを開始。2008年上京し、翌年に教室開講。現在、きりのみりいリアル羊毛フェルトの教室を都内・関東圏7か所で展開。
2013年1月一般社団法人miriis japan羊毛フェルト協会設立。

きりのみりいリアル羊毛フェルト教室: 吉祥寺教室/渋谷教室/自由ヶ丘教室/麻布教室/東急セミナーBEたまプラーザ校/埼玉・川越支部/横浜支部


HP: http://kiji-paint.com
MAIL:miriis_japan@hotmail.co.jp


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