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newsletter vol.7 カリグラファー  三瓶 望美さん

 
特別インタビュー

三瓶望美(みかめ のぞみ) さん
カリグラファー(西洋書道家)
カリグラフィー教室主催

※「英字サイン講座が人気」 2014.5.20 読売新聞掲載
  サインデザイナー三瓶望美さんの記事は本ページ文末にございます。


 語源に<美しい書き物>という意味をもつカリグラフィー=西洋書道は、アルファベットを手書きで美しく見せるヨーロッパの伝統技術です。2000年という長い歴史に培われ、今に伝えられてきました。ワ・ミューズでその手法を教え、「日常の世界を広げるきっかけにもなる」と語る三瓶望美さんにカリグラフィーを学ぶ魅力についてお伺いしました



■古典から創作まで。カリグラフィー果てしない可能性
  

 取材の日、バレンタインデーを間近に控えた教室では生徒さんたちが、St.Valentine’s Dayのスペリングを各々が勉強中の書体で練習する姿がありました。書くというよりは描かれるかのように、ペン先から白い紙の上に現れてくる文字。慎重に、時にはためらいながら書いていく生徒さんたちに、三瓶さんは文字の角度や線の調子、筆勢などを細やかにアドバイスしていきます。
「同じ書体を勉強しても、出来上がりの雰囲気や進み具合は違うので、自然と生徒さん一人一人合わせた教え方になりますね」と三瓶さん。初心者は、特殊な先の平たいペン先を使うので、インクの差し方や、ペンをどう動かしたらどういう線が出るのかということを最初に勉強し、書体は「形をどう揃えるかということが、目が慣れていない人でも分りやすく、自分の欠点が見えやすい」イタリック体から始めめるそうです。



 カリグラフィーの書体は、よく知られているゴシック体、イタリック体などを始め、長い歴史の中で考案されてきた書体がさまざまあり、三瓶さんのホームページでも12種類の書体が掲載されていますが、
「文字というのは、すべて手書きに置き換えられるので、際限なくいろいろな書体を学ぶことになります。馴れてくると、自分で文字をデザインする作業があるので、学ぶということには限りがないんですね」。最終目標は、その人なりの書体を身に着けていくことと言う三瓶さんは、
「生徒さんの将来の理想としては、たとえばパソコンに入っているフォントの書体でもいいのですが、それを手書きにしたらどうなるのか自分でテキストを作れるくらいになるといいですね」。その書体を作るには、書くときのペン先の角度や文字の高さの解析が必要だとお聞きして、難度がかなり高そうに思われましたが、
「規則はあって、日々増えていくフォントも古い書体を参考にしているんですね。カリグラフィーでいろいろな書体を勉強すると、そのフォントの元が何の書体が見えてくるんです。それをもとにフォントを解析すればまとまると思います」。カリグラフィー=古典文字とイメージが払拭された瞬間でした。


■日常世界を広げるきっかけになるのが大きな魅力
  

 カリグラフィーは、誕生日やクリスマス、ありがとうの思いを託すグリーティングカード、好きな文字や詩、聖書を写して額装にしたり、署名のデザインなど、身近に活用できるのも魅力です。自分で経営する会社のロゴや、商品のタグをデザインした生徒さんもいるそう。
「パソコンやデジカメ、スキャナーとかプリンターなど、最近の機材を組み合わせれば、手書きのカードをシールにしたり、封筒や名刺など自分でいろいろなものが作れます。仕上げ方も、さまざまな好みの人がその立場で楽しむことができるので、日常の世界が広がるきっかけになりやすいことが大きな魅力だと思います」。さらに三瓶さんは、好奇心旺盛な人に向いているとも言います。
「西洋の歴史にもかかわってきますし、カリグラフィーが発達した大きな要因はいかに聖書をきれいに書くかということが大もとになっていて、中世にいちばん盛んになったのですが、カリグラフィを習っていてラテン語を勉強し始めた人もいたりして、面白いですね(笑)」。語学や歴史を学ぶことへの興味を誘い出す――長い歴史の中で変遷し培われ、その発生段階にもたどれるカリグラフィを学ぶことのもう一つの魅力とも言えるかもしれません。


■個性を発揮する生徒さんとの作品展が大きな楽しみ
  

「私のような個人の教室の場合は、準備が大変なので作品展をする方が物凄く少ないのですが、大変なだけやりがいがあるので2、3年に一度はできる体制を整えていきたいですね」。大きな作品展としては3回目となった昨年11月に開催した原宿での展覧会は、アルファベットの中から好きな文字を選んで制作した作品が多くの人から好評を得ました。
「最初は、個性を出すなんて思いもしなくて、ただ字を書くのが好きで始めた方が多いのですが、展覧会のときには思い切って作ってくださる生徒さんが多いので、面白いくらい個性が出るんです」と嬉しそうに語ります。作品展の制作では、練習の段階で細かく指導することもありますが、仕上げに入ると生徒さんにお任せするという三瓶さん。それは「その人の勢いが出るように、のびのび仕上げてほしい」から。そして教えることが「とても楽しい」と思うのは、生徒さんの成長過程が見えるとともに、教わることも多いからだとも言います。
「家でこんな作品を作ってきましたと見せてくれることも多いのですが、自分では思いつかない配色であったり、私のデザイン・サンプルを元にしていても、それを大きく飛び越えた作風にしてくれたり。ものすごく楽しいです」。
 教室を開いて11年になり、作品展の運営を生徒さんたちに任せられるようになってとても助かっていると言葉がはずみます。三瓶さん特有のふんわりした優しい口調がそうさせたのか、
「私が頼りないので皆さんがしっかりしなくちゃって、指導者は頼りないほうがいいのかもしれませんね」と、笑いを誘いました。



 
■伝統技術の枠にとらわれない自由な発想
  

 カリグラファーとしての三瓶さん自身の仕事は、パスポートや外資系の会社で多くなってきた書類などに使われる署名(サイン)デザインを中心として、結婚式のウエルカムボードや座席札、ロゴデザイン、絵を勉強した経験から看板も手掛けるなど多岐にわたります。さらに今、絵を描くのも好きな三瓶さんが力を入れているのが英文の創作絵本です。
「著作権を気にせずに文章にできるのは、聖書とか著作権のきれた詩人の詩とか限られてしまう。そういうことをいつも気にして限られた世界で作品にするのに飽きてしまったんです」と言う三瓶さん。内容は、架空の世界での架空の動物たちの冒険譚。英文はネイティブの知り合いに直してもらい、指導者やそのレベルに達した人たちが所属するカリグラフィー・ギルドという団体の作品展に出品されているそうです。
絵本制作には、カリグラフィーに興味をもったきっかけになった絵とゴシック体の文字が組み合わさった聖書の写本や、20世紀前後にアフリカやアジアの探検記や報告書の筆記体とイラストや写真が載った図鑑などが背景にあり、
「すごくきれいだなって思っていて、そういうのを全部、自分でやっちゃいたいというのがあったんです」と、お茶目に笑います。カリグラフィーで何ができるかを自由に考える三瓶さんの姿勢は、生徒さんたちの制作にも及んでいます。
「発表の場には必ず規定を設けますが、昨年の作品展では手書きの文字をどこかで利用していれば良かったので、パソコンでデジタル処理をしたり、刺繍(カリグラフィーの書体を刺繍する)の作品もありました」と言う三瓶さん。
「私の仕事は、こうでなくてはいけないというこだわりを、なるべく捨ててもらうことかもしれませんね」とも。制作にどのように活用するかの発想、また興味の持ち方によって、限りなく広がっていくカリグラフィーの世界を垣間見たように思えました。


■プロフィール

 

  

西洋書道家。姫路生まれ。ヨーロッパ中世の聖書の写本などに興味をもち、1992年よりカリグラフィーをカルチャースクールで習いはじめる。1998年より、ウエルカム・ボード制作、署名(サイン)のオリジナルデザインなど、カリグラファーとして活動を開始。ワ・ミューズのほか、目黒、自由ヶ丘にカリグラフィー教室をもつ。ノゾミスタジオ主宰。著書に『美しい英文が書ける書き込み式筆記体レッスンブック』日本文芸社がある。
HP
ノゾミスタジオNozomi Studio http://www.nozomistudio.com/
カリグラフィー・パラダイス http://www.nozomistudio.com/callipara/



※「英字サイン講座が人気」 2014.5.20 読売新聞掲載
  サインデザイナー三瓶望美さんの記事








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